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遺産分割調停が始まったものの、相手方が明らかに時間稼ぎをしているように感じて困っていませんか?
「今度こそ話し合いが進むだろう」と期待して調停期日に出席しても、相手方は曖昧な返答に終始し、具体的な進展が見られない。このような状況が続くと、調停が長引くほど精神的な負担は増し、解決への道筋が見えなくなってしまいます。
実際に、当事務所にご相談いただく方の中にも「もう1年以上調停が続いているが、一向に解決の兆しが見えない」「相手方の態度に振り回されて疲れ果ててしまった」といったお悩みを抱える方が少なくありません。
この記事では、札幌・東京で数多くの遺産分割調停を手がけてきた弁護士法人リブラ共同法律事務所が、相手が時間稼ぎをする心理的背景と、それに対する効果的な対処法について詳しく解説します。
時間稼ぎの手法を理解することで、適切な対策を講じることが可能になります。
遺産分割調停で相手方が時間稼ぎをする背景には、必ず何らかの理由があります。
その理由を正確に把握することで、効果的な対処法を選択することができるのです。
最も多いパターンが、相手方が現在相続財産を管理・使用していることで利益を得ている場合です。
例えば、被相続人の不動産に住み続けている相続人は、遺産分割の内容次第で自分の居住権が失われる可能性があります。
相続財産からの収益(賃料収入等)を独占している場合や、相続財産を自身の事業に使用している場合も同様です。
このような状況では、現在の有利な状況を可能な限り長く維持したいという心理が働きます。
遺産分割が確定すると自身が独占していた利益を手放すことになりかねないため、意図的に調停を長引かせることで、少しでも多くの利益を確保しようとするのです。
特に、不動産の無償使用や賃料収入の独占は、月日が経つほど経済的なメリットが積み重なるため、時間稼ぎの動機としては非常に強いものとなります。
遺産分割の内容や手続きに不安があり、決断を先延ばしにしている場合もあります。
遺産分割調停は、多くの人にとって人生で初めて経験する法的手続です。
遺産分割の法的効果への理解不足や、税務上の影響への不安、弁護士費用への懸念から、他の相続人や調停委員からの分割内容の主張や提案に対してなかなか決断できずに時間が過ぎてしまうケースがあります。
このような場合の時間稼ぎは、悪意によるものではなく、むしろ慎重さや不安感の表れとして理解する必要があります。
しかし、結果として調停の長期化を招くことに変わりはありません。
特に、遺産分割によって税務上の負担が生じる可能性がある場合や、複雑な財産構成になっている場合には、専門家の助言を求めるための時間が必要となることもあります。
長期化による精神的疲労を狙った戦術として時間稼ぎが行われることもあります。
人間の心理として、長期間にわたって紛争状態が続くことに対する疲労感や嫌悪感は避けられません。
この心理を利用して、「早く解決したければ譲歩しろ」という暗黙の圧力をかけようとする相続人がいます。
また、調停が長引くことで申立人の経済的負担(弁護士費用、交通費、時間的コスト等)が増大することを狙ったり、高齢の相続人の体力・気力の消耗を期待したりする場合もあります。
このような心理戦は、特に相続人間の力関係に差がある場合や、一方が経済的に余裕がない状況にある場合に、より効果的な戦術として使われる傾向があります。
相続人間の長年の感情的対立が背景にある場合も少なくありません。
相続問題は、単に財産の分配だけでなく、家族関係における長年の感情的な問題が表面化する場でもあります。
生前の介護や金銭的支援への不満、家族関係における長年の確執、さらには「相手を困らせてやりたい」という報復感情が時間稼ぎの動機となることがあります。
このような感情的な対立は、合理的な解決を阻害する大きな要因となります。
相手方が金銭的な利益よりも感情的な満足を優先している場合、通常の交渉戦術では解決が困難になることも少なくありません。
特に、被相続人の生前に相続人間で金銭的な援助や介護の負担に差があった場合、その不公平感が調停の場で爆発し、建設的な話し合いを困難にすることがあります。
調停中であっても、相続財産の管理責任が不明確な状況を悪用するケースがあります。
法的には、遺産分割調停を申し立てたからといって自動的に相続財産の処分が禁止されるわけではありません。
この法的なグレーゾーンを悪用して、調停手続の進行中に預貯金の不正な引き出しや相続財産の売却・処分を行おうとする相続人がいるのが現実です。
また、重要書類の隠匿や破棄を行った相続人が、調停手続に時間をかけることでこれらの行為を誤魔化そうとしたり証拠隠滅を図ろうとする場合もあります。
特に、被相続人の財産状況を最もよく知る立場にいた相続人が、このような行為に及ぶケースが見受けられます。
時間が経過すればするほど、財産の所在が不明になったり、不正な取引の痕跡を消去したりすることが容易になるため、意図的に調停を長期化させる戦術が取られることがあります。
相手方が時間稼ぎを行う場合、その手法はある程度パターン化されています。
これらの手法を事前に知っておくことで、早期に時間稼ぎを見抜き、適切な対策を講じることができます。
調停手続では、当事者(申立人・相手方)が様々な書面や資料を家庭裁判所に提出する必要があります。
この書面提出プロセスを利用した時間稼ぎも頻繁に見られます。
資料提出期限の無視は、最も基本的な手法です。調停委員から指定された期限を守らず、「忘れていた」「準備に時間がかかった」といった理由で遅延を繰り返します。
不完全な書面の提出も効果的な時間稼ぎ手法です。求められた情報の一部だけを提出し、不足分については「後日提出する」として時間を稼ぎます。
また、追加調査が必要な情報の小出しにより、調停の進行を意図的に遅らせることもあります。
本来であれば一度に提出できる情報を小分けにして提出し、その都度「新たに判明した事実がある」として追加の検討時間を要求する手法です。
調停の焦点をぼかすことで時間稼ぎを図る手法も存在します。新たな争点の持ち出しは、その代表例です。
遺産分割の本質的な問題から逸れた論点を次々と提起し、調停委員の注意を分散させます。
既に決着した問題の蒸し返しも、時間稼ぎの典型的な手法です。
過去の調停期日で合意に近づいた事項について、「やはり納得できない」として再度議論を求めることで、調停の進行を後戻りさせます。
さらに、関係のない話題への誘導により、限られた調停時間を無駄に消費させる手法もあります。
被相続人の思い出話や家族間の過去のトラブルなど、遺産分割とは直接関係のない話題を持ち出して時間を浪費させるのです。
調停期日そのものを利用した時間稼ぎは、最も分かりやすい手法の一つです。
度重なる期日変更の申し出は、その典型例です。「急用ができた」「体調が悪い」といった理由で期日変更を求められると、調停委員も人道的な配慮から変更を認めざるを得ません。
また、体調不良等を理由とした欠席の繰り返しも、時間稼ぎの常套手段です。
実際に体調が悪い場合もありますが、明らかに調停を避けるための口実として使われることも少なくありません。
さらに、調停期日に出席はするものの、準備不足を理由とした継続の要求を繰り返すケースもあります。
「資料の準備ができていない」「もう少し検討時間がほしい」といった理由で、毎回次回期日への持ち越しを求める手法です。
相手方による時間稼ぎを放置することは、申立人にとって以下のような様々な深刻な問題を引き起こします。
身動きが取れなくなってしまう前に、なるべく早期の対策が重要です。
調停が長期化することによる経済的な損失は、時間が経つほど深刻になります。
特に不動産価値の下落リスクには注意が必要です。
相続するはずの不動産が遺産分割が進まないために適切に管理されない状態が続くと、建物の老朽化や市場環境の変化により、財産価値が大幅に減少する可能性があります。
相続税申告期限への影響も見逃せません。
相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月ですが、遺産分割が確定していない場合、小規模宅地等の特例などの優遇措置を受けることができず(※)、本来であれば節税できたはずの金額を失うことになりかねません。
(※)小規模宅地等の特例については、あらかじめ分割見込書を付して仮の申告をしておけば特例適用の期間を延ばし、遺産分割が出来た後に申告のやり直しを経て納めすぎた税額を返してもらうことが出来ますが、いったんは特例を適用しないで計算した税額を納めなくてはならないことには変わりありません。
さらに、管理費用や弁護士費用の増大も無視できません。
調停が長期化すればするほど、これらの費用は累積的に増加し、最終的に取得できる相続財産の実質的な価値を大きく減少させることになります。
経済的な損失以上に深刻なのが、精神的な負担の増加です。
長期化による心理的ストレスは、日常生活にも大きな影響を与えます。
調停期日のたびに感じる緊張や不安、相手方の不誠実な態度に対する怒りや失望は、心身の健康を蝕んでいきます。
解決への不安と焦燥感も、時間が経つほど強くなります。
「このまま永遠に解決しないのではないか」「相手の思うつぼになってしまうのではないか」といった不安は、睡眠不足や集中力の低下を引き起こし、仕事や家庭生活にも悪影響を及ぼしかねません。
また、家族関係のさらなる悪化も深刻な問題です。
調停が長期化することで、当初は修復可能だった家族関係が完全に破綻し、将来にわたって修復不可能な状態になってしまうケースも少なくありません。
時間稼ぎを放置することで、法的なリスクも増大します。
相続財産の散逸・隠匿の進行は、時間が経つほど深刻になります。
調停中であっても相続財産の管理責任が曖昧な状況を悪用され、気づいた時には重要な財産が消失していたということも起こり得ます。
また、二次相続発生のリスクも考慮する必要があります。
調停が長期化している間に相続人のうちの誰かが亡くなってしまうと、その相続人の配偶者や子ども等が新たに相続人として加わることになり、問題がさらに複雑化してしまいます。
また、一部の権利については時効や除斥期間の経過により、行使できなくなるリスクもあります。
特に、使途不明金の返還請求や不当利得の返還請求などは、時間の経過により立証が困難になったり、権利自体が消滅したりするおそれがあります。
調停委員に時間稼ぎの実態を具体的に伝えることが重要です。
【効果的な伝え方の例】
– 相手方の行動パターンを時系列で整理する
– 具体的な証拠資料を準備する
– 早期解決の必要性を相続人の損失や法的リスクを踏まえて具体的に説明する
時間稼ぎを防ぐため、具体的で詳細な調停条項案を早期に提示します。
調停での解決が困難と判断された場合、速やかに審判手続に移行できるよう準備します。
相続財産の散逸防止や管理の適正化のため、保全処分を申し立てます。家庭裁判所に求める調停前処分の内容は法定されていませんが、実務上、遺産分割調停の際に認められる保全処分は主に以下のようなものです。
時間稼ぎへの対応については弁護士へのご依頼をおすすめいたします。早期の専門家介入により、問題の拡大を防ぎ、効率的な解決を図ることができます。
相手方が3回以上期日変更を求めている場合は、明らかに時間稼ぎの意図があると考えられます。
正当な理由による期日変更は通常1〜2回程度であり、それを超える場合は戦略的な対応が必要です。
弁護士に依頼することで、調停委員に対して時間稼ぎの実態を効果的に伝え、適切な措置を求めることができます。
相続財産の不正使用や隠匿の疑いがある場合は、一刻も早い対応が必要です。
証拠の確保や保全処分の申立てなど、専門的な法的手続きを迅速に行う必要があります。
時間が経過すればするほど、証拠の確保が困難になり、回復不可能な損害が生じる可能性があります。
調停開始から6ヶ月以上経過している場合も、弁護士への相談を検討すべきタイミングです。
通常の遺産分割調停であれば、6ヶ月もあれば一定の進展が見られるはずです。
進展が見られない場合は、戦略的なアプローチの見直しが必要です。
複雑な法的争点が絡んでいる場合は、専門的な知識と経験が不可欠です。
特別受益や寄与分の主張、不動産の評価方法、税務上の問題など、専門的な争点がある場合は、相続手続に不慣れな方が適切に対応することは困難です。
保全処分や審判移行を検討する必要がある場合も、弁護士の専門的な判断が必要です。
どのタイミングでどのような手続を選択するかは、その後の結果を大きく左右しかねないからです。
税務上の問題が関わっている場合は、相続税や所得税への影響を考慮した戦略的な対応が必要です。
遺産分割の内容によっては、数百万円単位で税負担が変わることもあるため、税務の知識を持つ専門家のアドバイスが重要です。
弁護士に依頼することで、これらの複雑な問題に対して包括的かつ戦略的な対応を行うことができ、最終的により良い結果を得ることが可能になります。
専門家の早期介入は、時間稼ぎに対する最も効果的な対策の一つといえるでしょう。
遺産分割調停での時間稼ぎは、申立人にとって深刻な問題です。
相手方の狙いを正確に把握し、適切な対処法を講じることで、早期解決への道筋をつけることができます。
重要なのは、時間稼ぎの兆候を早期に発見し、戦略的に対応することです。
一人で悩まず、相続問題に精通した弁護士のサポートを受けながら、あなたの権利をしっかりと守っていきましょう。
遺産分割調停でお困りの方は、お早めにご相談ください。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、札幌・東京での豊富な調停経験を活かし、時間稼ぎに対する効果的な対策をご提案いたします。