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「代襲相続」とは、被相続人が亡くなる前に亡くなっている相続人がいるときに、相続人の子が亡くなった方に代わり相続財産を承継することをいいます。
超高齢社会となった現在の日本においては代襲相続が起こることも珍しくありません。ただし代襲相続があると相続権をもつ方の世代が広がり、相続人間で関わりの濃淡が生じる傾向にあるため、遺産分割の際に予想外に揉めてしまうことがあります。
本記事では代襲相続が起こるケースと代襲相続人がいることで生じる相続トラブルの特徴、トラブルを回避するためのポイントを、相続事件に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が解説致します。
被相続人の配偶者は常に相続人になり、加えて被相続人の子(第一順位)、被相続人の直系尊属(第二順位)、被相続人の兄弟姉妹(第三順位)、の順番で相続人になります。この第一~第三順位の中で生存している最も高い順位の方が配偶者とともに相続人となります。
そして、代襲相続が発生するのは主に以下のようなケースです。
被相続人の子が相続発生時にすでに死亡していた場合には被相続人の孫が子を代襲して相続人となります(民法第887条第2項)。このとき孫を「代襲相続人」、本来相続人であった子を「被代襲者」と呼びます。
また、代襲相続人である孫もすでに死亡していれば、ひ孫がさらに孫を代襲して相続人になります(民法第887条第3項)。このときひ孫は「再代襲相続人」と呼ばれます。なお、かなりのレアケースではありますが直系卑属であればひ孫以降の世代にも再々代襲、再々々代襲、…と続いていくことになります。
被相続人に子や孫、直系尊属(多くの場合は父母)もいなければ兄弟姉妹の相続分を検討することになりますが、兄弟姉妹が相続発生時にすでに死亡していれば、その子、被相続人から見れば甥・姪が兄弟姉妹を代襲して相続人になります(民法第889条第2項)。このときは甥姪が「代襲相続人」で兄弟姉妹が「被代襲者」と呼ばれます。
(1)と異なるのは、兄弟姉妹に加え甥姪も相続開始時に死亡していたとしても、甥姪の子による再代襲相続は生じないという点です。
上記(1)(2)は相続人が相続開始時に「死亡」していたケースですが、他に本来相続人となる者が相続開始時に「欠格事由に該当する」、あるいは「相続人から排除された」ことで相続人の地位を失ったケースでも代襲相続が発生します。
法定相続人であっても以下に該当する者は相続人の地位を欠く旨が定められています。
(該当者に是非の弁別がないとき、または殺害者が該当者の配偶者若しくは直系血族であったときを除く)
被相続人が生前の家庭裁判所への申立て、あるいは遺言によって、推定相続人のうち遺留分を有する者について相続人の地位を失わせること(廃除)ができる旨が定められています(遺留分を有しない相続人については遺言で一切の相続をさせないことができるため廃除の対象から除かれています)。ただし、廃除は無条件に出来るわけではなく、推定相続人に以下のいずれかの行為があったときに限られます。
「相続人でなくなる」という状況でいえば、「相続放棄をした場合にも代襲相続が生じるのか?」という疑問もあるかと思います。ですが法律上は、相続放棄をした方は欠格・排除と異なり「そもそも最初から相続人ではなかった」ことになるため(民法第939条)、代襲相続が起こることもなく、相続権は次の順位の相続人に移ります。そのため、例えば親の借金を相続したくなくて相続放棄をした方の視点でいえば、相続放棄後の借金は被相続人の孫(相続放棄をした方の子)ではなく、被相続人の兄弟姉妹(相続放棄をした方のおじ・おば)に引き継がれることになります。
代襲相続があるか否かで相続手続の流れ自体に大きな変化はありませんが、いくつか留意しておくべき点があります。
代襲相続が生じていると、一般的な相続の相続人調査よりも難航する傾向にあります。
相続人調査は一言でいえば「相続人の範囲を特定すること」ですが、その具体的な手順としては、その後の遺産分割協議や具体的な相続手続(不動産の名義変更や預金の解約など)を見据えて各相続人の住所を調べたり戸籍謄本を一式揃えたりすることも必要になります。そうすると、代襲相続人が被相続人本人や他の相続人とは離れた地で暮らしていたり、疎遠だったりしがちな代襲相続の事案では、追加で戸籍や住民票などを収集することになり代襲相続人を特定するまでに時間がかかります。
代襲相続人の相続割合は被代襲者の相続割合をそのまま引き継ぎます。一人の被代襲者に対して代襲相続人が複数いるときは、被代襲者の相続分を分け合うことになります。
例として、被相続人に配偶者と子2人(長男・二男)がいたが、長男は相続開始時に死亡していた事案の相続割合について法定相続分に従って考えてみます。この事案ではまず配偶者の相続割合は2分の1となり、子2人で残りの2分の1を分け合うことになります。つまり、この例での長男と次男の相続割合はそれぞれ2分の1×2分の1=4分の1です。ですが、長男は亡くなっているので、長男の子(代襲相続人)がこの4分の1を引き継ぎます。もし長男に子が2人いれば一人当たりの相続割合は4分の1×2分の1=8分の1、子が3人いれば相続割合は4分の1×3分の1=12分の1、になります。
遺産分割の内容がまとまった際には遺産分割協議書を作成しますが、金融機関や証券会社、法務局などの窓口に提出する際には相続人全員で署名・押印し、印鑑証明書の添付が求められることが通常です。代襲相続が発生している際にはこうした書類の取りまとめにも時間がかかり、相続人の代表者が手続を行う際にもその負担は代襲相続の無い事案に比べて大きくなる傾向にあります。
代襲相続が生じている事案では遺産分割の際も、代襲相続の無いときと比較してトラブル発生のリスクが高いといえます。その原因と内容について紹介いたします。
一般に遺産分割協議に参加する相続人の人数が増えるほど遺産の分割方法も細かく複雑になるため、意見をまとめるのが難しくなる傾向にあります。代襲相続では一人の被代襲者に複数の代襲相続人がいることも多いので人によっては何十分の1という相続割合になることもあり、遺産分割協議が滞る原因になりがちです。中には、協議が進まないうちに代襲相続人が死亡してさらなる相続が発生し、相続人調査や相続割合の計算をやり直すことすら困難になる…という事態に発展してしまうケースもあります。
代襲相続があると世代の異なる相続人が協議に加わることになります。「元の相続人(被代襲者)とは付き合いがあってもその子(代襲相続人)のことはよく知らない」という疎遠な関係性の方同士で遺産分割をしなければならないケースもあり、代襲相続人との連絡が取れないまま相続財産の承継がされず放置されてしまう問題の原因になります。
上述の通り代襲相続人は元々の相続人と比べ、被相続人や他の相続人との関係が希薄になる傾向にあります。そのため、例えば被相続人の子2名のうち1名に代襲相続が生じている事案で、代襲相続が生じていない側の子が被相続人の身近で世話をしていたようなケースだと、自身と同じ割合で財産を相続する代襲相続人に対して不公平感を抱く、世代が下の代襲相続人に対して強気な主張をする、という状況に陥りやすくなります。
「(相続人が)突然、遺産分割協議書が送られてきて署名を求められた」
「(相続人に)相続財産がどれくらいあるのか開示を求めても拒否される」
「(相続人から)相続放棄をするよう言われている」
…といったトラブルです。
被相続人の孫や甥姪といった代襲相続人からすれば、被相続人が生前どれくらいの財産を有していたかは分からないことがほとんどです。これに乗じて被相続人とより近い関係にあった相続人から、相続財産の全容を知らされないまま不利な内容での遺産分割をさせられたり、相続放棄をさせられたりしてしまうことがあります。
「代襲相続人と遺産分割協議をしたくても、どこに住んでいるか分からない」
「遠方の代襲相続人に手紙を送っても返事が来ない」
「よく知らない相続人(代襲相続人)と複雑なお金の話をしたくない」
「少ない取り分のために他の相続人と協力するのが面倒くさい」
…といったトラブルです。
代襲相続の多くでは「おじ・おば」と「甥・姪」間での遺産分割が必要になってくるのですが、必ずしも相手が近くに住んでいたり、頻繁に顔を合わせたりする関係とはいえないのではないでしょうか。そのため、実際に代襲相続人側が遺産分割に非協力的なケースは珍しくありません。ですが、いくら各々の相続分が少なくても遺産分割は相続人全員で行わなければならないことに変わりはなく、協力が得られない以上たとえわずかな相続分しか有しない相続人1人に対してでも遺産分割調停を申し立てざるを得ないという負担が生じます。
だからといって遺産分割自体をしないままだと、被相続人名義の預金がいつまでも凍結されている、凍結される前に使い込まれる、被相続人名義の不動産が放置されて荒れてしまう、二次相続が発生し相続関係がより複雑になる…といった更なる相続トラブルの原因にもなりかねません。
「何もしてこなかった代襲相続人より、長年被相続人の介護をしてきた子が多くの財産を相続すべき」
「被代襲者が生前に受けてきた贈与分や、被代襲者の死亡後に代襲相続人自身が受けた贈与分を相続分に反映させるべき」
…といったトラブルです。
寄与分(被相続人の財産の形成・維持に特別の寄与をした相続人により多く財産を取得させる)や特別受益(被相続人の生前に特別な利益を得た相続人がいた場合に、その利益分を相続財産に持ち戻したうえで、利益を得た相続人は自身の相続分から特別受益分を差し引く)は、いずれも法定の相続割合と異なる相続分を実現する制度であることから、代襲相続が起こっていなくても相続人間で利害が対立して揉めやすいポイントではあるのですが、互いの事情をよく知らない相続人、代襲相続人間だとより泥沼化しやすい傾向にあります。
ここまで見てきたように、代襲相続のある事案で相続トラブルが起こりやすいのは、代襲相続人とのコミュニケーションがうまく取れないことに原因があるといえます。
そのため、まずは生前の対策として、被相続人に遺言書を作成してもらうことが効果的です。このとき、財産目録も作ってもらうこと、代襲相続人の遺留分にも配慮した内容とすることがトラブル回避のポイントとなります。
また、相続発生後には早い段階で弁護士に相談して迅速に相続人調査を済ませる、協議の際に代理人弁護士を窓口とする、といった方法で代襲相続人(相続人)と円滑なコミュニケーションを図ることがトラブルの防止につながります。
代襲相続が生じているときは、相続関係はより複雑になります。そのため、
弁護士にご依頼いただくことがより迅速、かつ精神的なご負担も少ない解決につながります。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では当事務所では、これまでに数多くの相続問題を解決してきた実績がございます。代襲相続が生じていて相続人調査や遺産分割協議、相続手続についてご不安な点がございましたら、お気軽に当事務所へお問い合わせください。