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・「夫(妻)を亡くし、自分と未成年の子どもが相続人になった」
・「被相続人の未成年の孫が代襲相続人になっている」
・「被相続人が未成年者を養子にしていた」
…というように、未成年の方が相続人になるケースは珍しくありません。
相続のルールを定める民法において18歳未満の方は未成年者とされ、単独での契約締結などの一定の法律行為を制限することによって強く保護されています。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければ無効とされますが、その一方で遺産分割協議は財産の移転に関する権利を生じさせる法律行為であるため未成年者は参加することが出来ません。
そのため原則として親権者が法定代理人として協議を行うことになりますが、親権者も相続人になっている場合は、親権者と未成年者の間で利害が対立(遺産を取り合う)関係になってしまうため、別の代理人が必要になります。
こちらの記事では、札幌市近郊で多数の相続問題を取り扱っている弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、未成年者が相続人になった場合に必要な手続や注意点について解説いたします。
法律上、相続人になれるのは被相続人の配偶者、そして子(すでに亡くなっていれば代襲相続人)、直系尊属、および兄弟姉妹(すでに亡くなっていれば代襲相続人)と定められており、年齢による制限はありません。
また、上記の関係にある方でも以下の場合は相続人の資格を失う(相続欠格)とされています(民法第891条各号)が、これらの欠格事由も相続人の年齢には関係のないものです。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない)
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
不動産などの財産の所有権や口座を開設した金融機関に対する預金債権、といった財産権の帰属主体となる資格(権利能力)は出生により取得する、というのが法の原則です(民法第3条)。これに関連して相続の場面では「相続権が認められるのは被相続人が死亡したときに存在している相続人に限られる」という「同時存在の原則」というものがあります。
例えば、母親の妊娠中に父親が亡くなり相続が発生したというケースでこの原則に従うと、母親のおなかの中にいる胎児は父親の相続人にはならないことになります。
ですが、原則通り出生で区別してしまうと、父親の死亡前日に生まれた子は相続ができる一方で父親の死亡翌日に生まれた子は相続できないという結論になってしまい、不均衡が生じます。
そのため、民法は例外として「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」(民法第886条第1項)という規定を設け、相続に関してだけは胎児の権利能力を認めています。さらに実務上はこの規定を、胎児が生きて出生したときに相続開始時に遡及して相続権を取得するものと解して運用しています。
例えば、「父親が死亡し、母親(妻)と未成年の子が相続人となった」というケースが挙げられます。
このとき、母親と子で父親の遺産を分け合うことになりますが、母親が子の代理人となることを認めてしまうと、子の法定相続分をも自分に相続させる内容で遺産分割協議を成立させることが出来てしまいます。実際にそうするか否かに関わらず、このように法的には母親と子は利益相反関係(一方の利益が他方の不利益になる関係)にあるため母親は親権者であっても子の代理人として遺産分割協議に参加することは出来ません。
上記のケースで「子にだけ相続放棄をさせること」も親権者との利益相反行為に該当するため、特別代理人の選任を要します。なお、未成年者全員と親権者が同時に相続放棄をすること、および親権者が先に相続放棄した後に未成年者全員を代理して相続放棄をすることについては未成年者と親権者間の利益相反が生じないため特別代理人の選任は必要ありません。
「未成年者の子の親権者を母として離婚→その後、元夫(子の父親)が死亡」というケースを例に考えてみます。
このケースでは、子は父親の相続人ですが、子の親権者である母親はすでに被相続人の配偶者ではなくなっているため、父親の相続人ではありません。すなわち、①で問題となった未成年者と親権者との間の利益相反関係は生じないことになりますから、親権者である母親が子の代理人として遺産分割協議に参加することが出来ます。
しかし、このようなケースであっても、子どもが2名以上いる場合には結論が異なります。
複数いる子どもたちは全員父親の相続人になるため、子ども同士で利益相反関係が生じるからです。このとき母親は複数の未成年者の代理人になることは出来ず、「一人の未成年者についてのみ母親が代理人となり、残りの未成年者にはそれぞれ特別代理人を選任する」または「未成年者全員にそれぞれ特別代理人を選任する」のいずれかを経て遺産分割協議をしなければなりません。
>>相続放棄について
親権者の死亡などにより、未成年者の親権を持つ者がいなくなってしまうことがあります。このような場合に未成年者を保護するために、親権者の遺言で指定する方法、あるいは未成年者本人や親族その他利害関係人から家庭裁判所へ選任を求める方法で選ばれるのが未成年後見人です。
未成年後見人も親権者と同じく未成年者の法定代理人ではありますが、未成年者の親族が選ばれることも多いため、相続の場面では未成年者と一緒に相続人になってしまう場合があります。また、一人の未成年後見人が複数の未成年者について選ばれているときにその未成年者らが揃って相続人になる場合もあります。これらの場合には上記①②と同じ利益相反関係が生じますので、未成年後見人が未成年者を代理して遺産分割協議に参加することは出来ず、特別代理人を選任しなければなりません。
未成年者の現住所を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。申立てが出来るのは親権者、そして利害関係人です。利害関係人には、当該遺産分割に参加する他の相続人などが該当します。
標準的な必要書類は以下の通りです。
✅特別代理人選任申立書
✅未成年者の戸籍謄本
✅親権者(未成年後見人)の戸籍謄本
✅特別代理人候補者(遺産分割に関して利害関係のない方)の住民票または戸籍附票
✅利益相反に関する資料→遺産分割のケースでは遺産分割協議書案を提出します
✅(利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する資料→他の相続人からの申立てであれば、相続人であることを証明する戸籍謄本を提出します
✅収入印紙、連絡用の郵便切手→金額、組み合わせは申し立てを行う家庭裁判所に確認します
特別代理人の候補者として最も一般的なのは相続人でない親族の方ですが、相続に利害関係さえなければ必ずしも親族である必要は無く、友人に依頼したり、弁護士などの専門家に任せたりすることも可能ですし、候補者を立てずに申立てがなされた際には家庭裁判所が選任します。
申立て後は、裁判所は必要であれば申立人へ追加書類の提出を求め、あるいは候補者に照会書を送ったり面談へ呼び出したりして、「候補者が未成年者の代理人として適しているか」「遺産分割の内容が未成年者に不利なものではないか(分割される遺産が法定相続分を下回らないか)」「未成年者に不利な遺産分割がなされようとしている場合は、合理的な理由があるか」といった点を審査します。
審査が終わり、申立て内容に問題がなければ、特別代理人選任審判が出され、審判書が交付されます。この審判書には申立時に提出された遺産分割協議書案の内容が代理権の範囲として記載され、これと相違する内容の遺産分割協議を成立させることは出来ません。
なお申立てから審判までは概ね1か月前後、審査に時間がかかれば3か月程度かかる傾向にあります。
協議内容を記した遺産分割協議書には相続人全員が署名・押印をし、相続登記や預金の解約等の手続の際には印鑑証明書を添付して各窓口へ提出する必要があります。
未成年者については特別代理人(親権者・未成年後見人が代理できるケースなら親権者・未成年後見人)による署名・押印がなされ、印鑑証明書も特別代理人のものを使用することになります。さらに、特別代理人が選任されたときには審判書の提出も求められます。
未成年者であっても、相続をしたときには相続税を支払わなければなりません。
ですが、未成年者には養育費や教育費といった支出があることも考慮し、相続税についてはその負担をなるべく軽くできるよう、控除制度が設けられています。
相続税の未成年者控除額は、
(18歳-相続開始時の未成年者の年齢※)×10万円
※未成年者の年齢について、1年未満は切り捨て(例、15歳10か月→15歳)
で計算されます。
算出された控除額がもとの相続税額を上回り全額を差し引きしきれない場合は、残りの控除分はその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引かれます。
相続人の中に未成年者がいると、親権者や未成年後見人を介して、あるいは特別代理人を選任してから遺産分割協議を行う必要があります。また、本記事では主に遺産分割協議について取り上げましたが、相続放棄をする際も特別代理人の選任が必要になるケースがあります。そのため、未成年者の相続人がいるケースの相続手続は通常よりも時間がかかることを想定して準備をしなければなりません。
そこで、弁護士にご依頼いただければ、特別代理人の選任申立てに必要な戸籍等の書類の収集、遺産分割協議書案の作成、申立書の作成・提出を代わりに行うことができます。また、特別代理人選任後も、各窓口への提出書類の準備~提出をお任せいただけますので、スムーズに相続手続を進めることが可能です。
札幌市近郊にお住まいで、未成年者の相続でご不明な点がある方は、多数の相続問題を解決してきた弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、初回相談は50分無料ととなっております。
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弁護士法人リブラ共同法律事務所
代表弁護士 菅原 仁人
相続、離婚など家事事件
中央大学法学部卒業後、平成21年に弁護士登録、札幌の法律事務所に入所。3年半の勤務を経て北海道リブラ法律事務所(現弁護士法人リブラ共同法律事務所)を設立。
札幌地域の離婚や相続など、家事事件を主に取り扱っている。現在は札幌市内2か所(札幌・新札幌)と東京1か所(吉祥寺)に拠点を構える弁護士法人の代表として活動している。