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相続財産はいろいろな形で存在していますが、ほとんどの方がいずれかの金融機関に口座を開設していることを考えると、「預貯金」は相続財産の中でも最も一般的な財産といえます。
そのため、相続が発生した際に預貯金に関する手続きを避けては通れません。
こちらの記事では、札幌市近郊で遺産分割や相続手続を多数取り扱っている弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、預貯金の相続に関するルールや注意点について解説いたします。
今では相続が発生した際には皆さんが当然のように「被相続人の預貯金をどう分割するか」を考えているかと思いますが、かつては、「(相続人全員があえて預貯金を相続財産に含めることを合意している場合を除き、)預貯金は被相続人の死亡により相続人たちに当然に分割されるため遺産分割の対象にはならない」、つまり、各相続人が自身の法定相続分相当の預貯金を、他の相続人の同意なく単独で払い戻しを受けることが出来る、と解されていました(あくまで各金融機関の実務上、他の相続人の同意を求めていたにすぎないという状況でした)。
しかし、平成28年に最高裁判所において「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」との判例変更がなされました。変更の理由としては、遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的な公平を図るものである以上、出来る限り幅広い財産を対象とすることが望ましいとの考えや、実務の観点からは預貯金債権が現金と同じように具体的な遺産分割方法を定めるにあたっての調整に適した財産であることが挙げられています。
そもそも、預貯金がかつて遺産分割の対象とならないと解されていたのは、預貯金債権が法律上は「可分債権」と呼ばれるものであるからです。預貯金債権については上記の最高裁判例により遺産分割の対象とされるようになりましたが、他の可分債権は引き続き、相続人全員が遺産分割の対象に含める旨の同意をしていない限り、遺産分割をする必要がありません。
そのような可分債権のひとつの例として、被相続人が第三者にお金を貸していたケースの貸金債権があります。こうした貸金債権については遺産分割をせずに各相続人が法定相続分を債務者(借主)に請求することができます。
もっとも実務上は、それぞれの相続人が債務者から返済を受けていくことは煩雑なため相続人全員の合意により遺産分割の対象として相続人のうち一人がまとめて債権を取得することが多く、こうした場合、他の相続人は預貯金をその分多く受け取ったり、代償金の支払いを受けたりする内容で合意することが通常です。合意をした場合は、後にトラブルにならないように遺産分割協議書に明記するようにしましょう。
最も一般的な方法は、被相続人名義の預貯金口座を全て解約し、払い戻した現金を法定相続分に応じて分け合うというもので、公平な分割を実現しやすいです。
この方法では実際に窓口で解約手続きを行う代表相続人を決める必要があります。中には払い戻した後の預貯金について、各相続人に振り分けての送金に対応していない金融機関もありますので、こうした金融機関の預貯金については代表相続人が一旦全額を受け取り、各相続人への振り込み手続もしなければなりません。
被相続人お一人で複数の金融機関に口座をお持ちのことも少なくありませんが、そのようなケースでは、口座ごとに誰が相続するか決めて分割する方法もあります。
こちらの方法では各相続人で自分が相続する口座について解約(あるいは名義変更)手続きを行えば足りますので、代表相続人への負担がなくなるメリットがあります。もっとも、複数の口座で残高に差があることが普通ですので、相続人間の不公平をもたらすことも多いです。そのため、この方法を取る場合には他の相続財産によって調整することになります。
被相続人名義の預貯金を相続により取得するまでの流れをご説明いたします。
相続が開始したら、まずは相続の対象がどこにどのくらいあるのか、預貯金であればどの金融機関に口座があり残高がいくらあるかを確認しなければなりません。
まずは遺品に預貯金通帳やキャッシュカードがないか確認し、見つかれば「口座名義人が死亡したこと」および「ご自身が口座名義人の相続人であること」を証明する戸籍謄本とともに金融機関の窓口に持参して他の口座の有無や残高の照会をすることが出来ます。
もし、通帳やカードといった手がかりがない場合には、郵便物の中に金融機関からのものが含まれていないかを確認したり、公共料金やクレジットカードの支払明細等を見て引き落とし口座を確認したりする作業が必要になることがあります。また、最寄りの金融機関へ行って預貯金口座の有無について確認する方法もあります。
なお、金融機関では窓口に相続人の方がお越しになったことで口座名義人の死亡を確認した際には、口座の凍結を行います。以降は被相続人名義の口座から公共料金等の引き落としなども出来なくなりますので、特に被相続人と同居している方がいる場合にはこれらの支払方法をあらかじめ変更しておく必要があります。
また、遺産分割にあたっては相続の対象となる財産の範囲だけでなく、遺産を誰と分け合うかという点も確定させなければなりません。預金の調査と並行して、相続人調査も進めていきましょう。
遺言書で相続する方が指定されていない場合は、相続財産調査により明らかになった相続財産についてどう分割するか、相続人全員で協議します。相続人全員の合意のない遺産分割は無効となりますので注意しましょう。
合意がまとまれば、その内容を遺産分割協議書として書面化します。
協議書の作成は法律上義務付けられているものではありませんが、金融機関では被相続人名義の預貯金口座の解約や払い戻しにあたり相続人全員の合意を得られたことを書面で確認しなければ手続をしてもらえません。それぞれの金融機関所定の書式の合意書等へ全員が署名・実印の押印をすることでも合意を証明することはできますが、実際は複数の金融機関に口座があるケースや、預貯金以外の相続手続も必要なケースがほとんどであることを考えると、どの窓口にも提出できるよう皆様で遺産分割協議書を作成しておいたほうがスムーズです。
なお、相続人間で意見が分かれるなどして協議で遺産分割方法が定まらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが考えられます。調停でも相続人全員の意見が合致しないときには手続きは審判に移行し、裁判官により、遺産の分割方法を決定することになります。調停で分割方法が決まった場合に作られる調停調書、および審判で決まった場合の審判書もまた相続人間の合意を証するものとして遺産分割協議書の代わりに金融機関の窓口に提出することが出来ます。
>>遺産分割協議書の作成について、詳しくはこちらをご覧ください。
遺産分割の内容が決まれば実際に預貯金を各相続人へ分配しますが、金融機関で必要になる書類はどのような手続で遺産分割の内容を決定したかにより若干異なります
(遺言の内容や金融機関により必要な書類が異なる場合もございますので被相続人の口座がある金融機関に確認いただくことをお勧めいたします)。
【遺言書がある場合】
✅遺言書
✅(公正証書遺言でない場合)検認調書
✅被相続人の除籍謄本 ※口座名義人の死亡が確認できるもの)
✅預金を相続する方の印鑑証明書 ※遺言執行者がいる場合は遺言執行者のもの
✅(家庭裁判所で遺言執行者が選任されている場合)選任審判書謄本
【遺産分割協議書を作成した場合】
✅遺産分割協議書 ※相続人全員の署名+実印の押印が必要です
✅被相続人の戸籍謄本一式 ※出生~死亡までの全て
✅相続人全員の戸籍謄本
✅相続人全員の印鑑証明書
【調停調書・審判書がある場合】
✅調停調書謄本または審判書謄本
✅(審判の場合)審判確定証明書
✅預金を相続する方の印鑑証明書
上述の通り、金融機関が口座名義人の死亡を知ると口座は凍結されます。そこで、「凍結前に預貯金を引き出しても良いだろうか」とご質問をいただくことがございます。
ですが結論からいえば、被相続人の預貯金は遺産分割前には引き出さないことが望ましいです。
例えば、相続財産調査の結果、実は被相続人には借金などのマイナスの財産の方が多かったという場合に、預貯金を引き出して使ってしまっていると「単純承認(プラスもマイナスも、全ての財産を相続する)」をしたとみなされてしまい、相続放棄(どの財産も相続しない)、限定承認(プラスの財産の範囲でのみマイナスの財産を相続する)という選択ができなくなってしまいます。
また、遺産分割前は相続人全員の共有財産であるはずの相続財産を引き出してしまう、使ってしまうということは、他の相続人から不当利得として返還を求められるなどトラブルの火種にもなりかねません。
とはいえ、取り急ぎ「被相続人の口座から葬儀費用を出したい」、「被相続人と一緒に暮らしていた相続人が生活費を工面できなくなる」といったケースもあるでしょう。
そういった需要に応え、平成30年改正の民法で遺産分割前の預貯金の仮払い制度が新設されました。仮払いを受けられる金額は各金融機関で[相続開始時の預金額×3分の1×法定相続分]で、かつ上限は150万円までと定められています。この仮払いを受けた相続人の方は遺産の一部を分割して仮払い分を取得したものとみなされますので、後で行われる遺産分割において仮払い分を清算することになります。
預貯金に限ったことではありませんが、相続開始(被相続人の死亡)後は出来るだけ早く遺産の分割内容を確定させ、そして相続手続を行うことをお勧めいたします。
金融機関での手続きなどに決められた期限があるわけではありませんが、相続人が亡くなってしまうと新たな相続(二次相続)が生じさらにその相続人を含めた相続人全員での遺産分割協議が必要になってしまいます(亡くなった相続人と協議がまとまっていても再度やり直しです)。
また、上述の相続放棄や限定承認には相続開始を知った日の翌日から3か月以内、相続税の申告・納付は相続開始を知った日の翌日から10か月以内という期限があります。いずれも誰がどの財産を相続するか分かっていることが前提となるものですので、早めに手続を進めておくに越したことはありません。
>>遺産分割をせずに放置することのデメリットについてはこちらもご覧ください。
預貯金は最も一般的な財産のひとつですが、いざ相続が発生すると実際に相続人の方が故人の預貯金を受け取るまでの手続は意外と煩雑なものです。仮に遺産分割協議が大きな揉め事なくまとまったとしても遺産分割協議書の作成、印鑑証明書の取得・取りまとめ、戸籍の収集、金融機関の営業時間内(ほぼ平日の日中に限られるでしょう)での来店など、ご負担に感じる点は多いと思います。
当事務所にお越しの方にも「弁護士には他の相続人とのトラブルになったときにしか依頼できないのではないか?」とお考えの方がいらっしゃいますが、弁護士には相続財産・相続人調査や相続手続の段階、具体的には必要な戸籍の収集や窓口への書類提出等もご依頼いただくことが可能です。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、
✓遺言書作成等の生前の対策
✓預貯金を含む相続財産調査や相続人調査
✓相続人間の遺産分割協議・調停
✓預貯金の分割方法決定後の相続手続
のいずれについても多数の案件を取り扱ってきた実績がございます。
札幌市近郊で相続についてご心配な点やお悩みのある方は、弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。
弁護士法人リブラ共同法律事務所では、初回相談は50分無料となっております。
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弁護士法人リブラ共同法律事務所
代表弁護士 菅原 仁人
相続、離婚など家事事件
中央大学法学部卒業後、平成21年に弁護士登録、札幌の法律事務所に入所。3年半の勤務を経て北海道リブラ法律事務所(現弁護士法人リブラ共同法律事務所)を設立。
札幌地域の離婚や相続など、家事事件を主に取り扱っている。現在は札幌市内2か所(札幌・新札幌)と東京1か所(吉祥寺)に拠点を構える弁護士法人の代表として活動している。