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相続が開始すると、被相続人(亡くなった人)が遺した財産(相続財産)は、相続人の間で分けあうことになります。
これがいわゆる遺産分割と呼ばれる手続きですが、その遺産分割のためには、分けあう対象である相続財産がどのくらいあるかを調査し、把握しなければなりません。
相続財産調査とは、「被相続人が遺した遺産の全容を把握するための調査」を指します。
例えば、ほとんどの人は預貯金口座を持っていると思いますが、被相続人がどのくらい預貯金を遺しているかをあらかじめ知っている相続人はほとんどいないと思われます。そんなときには、預貯金通帳やカードをもとに、金融機関から残高証明書を取得し、預貯金の内容や残高を把握することになります。
相続が発生したら、戸籍を取り寄せて相続人が誰であるかを確認する「相続人調査」と同様に、なるべく早く行う必要がある作業です。
相続財産調査が必要な理由は大きく分けて3つあります。
相続財産の全容を把握しないまま遺産分割を終えてしまうと、遺産分割後に新たな遺産が出てくる可能性があります。
そうすると、その都度、相続人間で遺産分割をやり直さないといけないことになります。相続人が多数いる場合や、相続人間の関係が良好でない場合には、遺産分割を繰り返すことでトラブルにもなりかねません。
相続財産の全容を把握していないと、相続税の計算が正確にできません。
すると、相続税の申告が必要と気づけなかったり、申告しても過少な申告になったりして、後から無申告加算税や過少申告加算税といった追徴課税が生じる可能性があります。
相続財産には、預貯金や不動産のようなプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も含まれます。
こういったマイナスの財産がある場合には、相続放棄や限定承認といった手続を取ることで相続しないで済むことができますが、これらの手続は相続開始から3か月間という期限があります。そのため、なるべく早く相続財産の全容を把握し、マイナスの財産を相続しない選択肢を残す必要があります。
とはいえ、相続財産調査とは具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。
ここでは被相続人が遺した遺産について、基本的な調査方法を説明させていただきます。
まずは被相続人の自宅に遺産の手がかりとなる書類が残されていないか確認することが相続調査の第一歩です。被相続人の遺品整理の際に、一緒に遺産の手がかりを探すと良いでしょう。
たとえば、被相続人が使っていた机の引き出し、棚やレターケースなどに預金通帳や不動産の権利書が入っていることがあります。また、保険会社や証券会社などからの手紙や、ローンの支払通知が届いていないかどうか、確認してみましょう。もしかしたら、ポストや郵便受けに入ったままかもしれません。
被相続人の友人や家族、隣人などの関係者に遺産についてお伺いするのも有効です。
具体的には、被相続人が友人からお金を借りていないか、家族に貸している自動車や家がないか、などを確認しておきましょう。関係者からの記憶を手掛かりに、関係する財産の名義を調査したり、借用書がないか確かめたりすることで、あなたが把握していない遺産が発見されることがあります。
上記1、2、で見つけた手がかりをもとに、実際に書類を取り寄せたり、問い合わせをしたりすることで、遺産の全容を把握していきます。
たとえば、預貯金の通帳が発見された場合には、通帳を発行した金融機関に残高証明書を請求し、確実な残高を把握します(最後に通帳に記帳されて以降も取引が発生し、通帳に記載のある金額と実際の残高が異なる場合があるからです)。
以上、相続財産調査の基本について説明いたしました。
基本的にはこの3つを実施することで遺産を探すことが出来ますが、時間的余裕がない方や、方法に不安を感じている方は、弁護士にご相談ください。
相続財産調査の期限それ自体は、厳密には決まっていません。しかし、被相続人の財産を相続するかしないか、つまり相続放棄や限定承認をするかしないか、を決定する期限については「相続の開始したことを知ったときから3カ月」と法律で決まっています。
そのため、事実上、財産調査についても期限は相続開始から3か月と考えるのが妥当でしょう。そのため、かなりタイトなスケジュールとなります。
仮に、マイナスの財産が存在することを知らずに遺産分割を実施した場合で、被相続人に借金があることが発覚したときに、すでに相続開始から3カ月以上経過してしまっていると、相続放棄をするのは困難となります。
そのような事態を避けるためにも、3ヶ月以内に確実に相続財産調査を完了し、必要な場合は相続放棄や限定承認の手続を取る必要があります。
また、相続財産の全容を把握していないと、相続税の申告もできません。
もし財産調査をしないまま、あとから多額の財産が見つかった場合には、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)までに申告が間に合わなくなる可能性があります。相続税の申告が間に合わないと、税務調査をされたり、追徴課税をされたりする危険があります。そのためにも、早期に相続財産調査を完了させ、財産の全容を把握すべきです。
さらに、相続人がその存在を把握できなかったために相続手続が取られなかった預貯金は、相続発生後10年で銀行の所有物となり、引き出すことが完全にできなくなります(全国銀行協会などの内規による、休眠口座の取り扱いで決められています)。
そのため、必ず、自分たちが把握しているもの以外に被相続人名義の口座が存在しないか、調査しておく必要があります。
相続財産調査と一口に言っても、いろいろな財産があります。
その代表例が、①不動産、②預貯金、③株や投資信託といった金融資産です。ここでは、不動産、預貯金、金融資産の3つの財産について、調査の方法を説明いたします。
大まかに説明すると、不動産の「地番」や「家屋番号」をもとに、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、登記簿の記載から不動産の所有者や名義人を把握する、という流れになります。
前提として、不動産のうち「土地」と「建物」は別々の財産として取り扱われます。そのため、たとえば、被相続人が他人の所有する土地を借りて、その土地上に自身の名義で建物を建てた、という場合もありえます。
最初に、土地であれば「地番」、建物であれば「家屋番号」を調べなくてはなりません。これらは住所や建物の名前とは関係性のない番号です。
地番や家屋番号を調べるには、まずその土地の権利証(登記識別情報通知書)を探す必要があります。その権利証には、土地、家屋だけでなく、私道、墓地などの固定資産税が課されていない不動産の「地番」や「家屋番号」も記載されています。権利証は被相続人が自宅で保管していることが多いです。
もし権利証が見つからなければ、各市町村役場で「名寄帳」という納税義務者ごとの資産の一覧を取得します。
名寄帳を取得する際には、以下の3点に注意しましょう。
1点目は、名寄帳にはその各市町村にある資産のみが記載されている、ということです。そのため、遠方の不動産について調査するには、その市町村役場に直接行くか郵送での請求が必要にあります。また、複数の市町村に不動産を所有している場合には、それぞれの市区町村から名寄帳を取得する必要があります。
2点目は、共有名義の資産については別に名寄帳が作成されることです。そのため、必ず「共有名義の名寄帳」も取得する必要があります。
3点目は、特に非課税の不動産については名寄帳から記載が漏れている場合もあることです。その場合は法務局でさらに公図を使った調査が必要になります。
不動産の「地番」と「家屋番号」を調べることが出来たら、法務局で登記簿謄本を取得します。名寄帳とは異なり、登記簿謄本は、最寄りの法務局で遠方にある不動産のものでも取得することが可能です。
登記簿謄本には、不動産の種類、面積、権利情報などが記載されているため、その不動産が被相続人の所有物かどうかを調べることができます。
預貯金の調査にあたっては、遺品の中にある被相続人名義の通帳やカードを手がかりにすることになります。
通帳やカードが見つかれば、これらを該当の金融機関に持参し、自分が法定相続人であることを証明すること(具体的には相続関係がわかる戸籍謄本を持参するなど)で、被相続人の預金の有無や残高について、照会することができます。
しかし、被相続人が家族に内緒で口座を開設している場合も考えられます。また、最近はネットバンキングも普及しており、通帳のない口座をお持ちの方も増えています。
もしそれらの口座に多額の預貯金があり、被相続人の死後、相続人がそのことに気づかないまま10年以上経過すると、その預金は一切引き出せなくなり、相続ができなくなってしまいます。
こうしたことを防ぐために、郵便物の中に金融機関からのハガキや封筒が届いていないかを確認したり、公共料金やクレジットカードの明細を見て引き落としがどの金融機関の口座に指定されているかを確認したりすることも必要です。
また、被相続人が貸金庫を利用していた場合、その貸金庫の中を確認するには相続人全員の合意が必要です。そのため、貸金庫の存在が疑われるような鍵やカードが見つかったら、早急に貸金庫を開けるための手続きをしましょう。
金融資産とは、預貯金以外の、株式や債券などの「有価証券」や「投資信託」などを指します。これらの調査方法は、相続人において、被相続人が取引していた証券会社を把握しているかしていないかで変わります。そのため、まずは遺品整理の際に証券会社からの郵便物等がないか探してみましょう。
被相続人が取引していた証券会社が把握できた場合は、その証券会社から残高証明書を取り寄せて、保有状況を確認します。
このときも、預貯金についての調査と同様に、自分が法定相続人であることを証明すること(具体的には戸籍謄本を持参するなど)が必要となります。
被相続人が取引していた証券会社が把握できなかった場合は、証券保管振替機構(通称ほふり)に登録済加入者情報の開示請求をすることで、被相続人が証券口座をどの証券会社に保有しているか、を照会することができます。
なお、この開示請求は1人(住所が複数存在する場合は1住所)毎に手数料が掛かります。また、この時点では、具体的に証券をどのくらい保有しているかまでは開示されないので、それぞれの証券会社から残高証明書を取り寄せて調査を進めていくことになります。
相続財産調査を行う上で、最優先に調査すべき財産は、遺産分割をする際に揉めやすい不動産や預貯金といった財産ですが、これら以外にも調査すべき財産はあります。
たとえば、自動車や家具といった動産、被相続人に掛けられていた保険金、働いていた会社から支給される死亡退職金が挙げられます。
動産とは、「不動産ではない物」をいいますが、ここでは、相続財産として代表的な「自動車」「貴金属」「芸術品(骨董品や絵など)」の3つについて説明いたします。
(1)自動車は、財産的な価値が残っている場合には相続財産に含まれます。
遺産分割の前に、その自動車の名義のほか、自動車の車種・年式や購入年月日といった情報から財産的な価値がどのくらいあるか、を把握しておく必要があります。これらの情報を集めるために、調査すべき書類は以下の4つです。
被相続人の自宅以外の、全く別の駐車場・車庫などに保管されている可能性もあります。自動車の有無自体を確認するため、最初に探すべき書類です。
自動車があることが確認出来たら、次に探すべきは車検証です。なぜなら、車検証には自動車の所有者、登録年月日などの所有・登録情報、車種・形式などの自動車自体の情報が記載されているからです。
自動車が被相続人の所有なのかそうでないのか、が確認できるともに、車種・形式の情報から自動車のおおよその財産額を把握することもできます。もし発見できない場合は、各市町村の運輸支局(または陸運局)へ照会をしましょう。
被相続人名義の自動車があるときには、必ず自動車税の納税証明書(納税通知書)が被相続人宛に送付されます。その証明書から自動車の所有者や自動車税の算定基準となる自動車の価額が把握することもできます。
自動車の任意保険の保険証券からも自動車の所有者や自動車の情報を確認できます。保険証券が見つからなければ、損害保険会社に問い合わせてみましょう。
加えて、被相続人の使用していた自動車だけでなく、相続人や親族が使用している自動車についても、被相続人の名義で所有している可能性がありますので、必ず確認しておきましょう。
(2)貴金属についても、財産的価値があるものだと相続財産に含まれるため、自動車と同様に財産の存在と財産的価値を調査する必要があります。
まずは被相続人の自宅の金庫や化粧台などを入念に探してみましょう。場合によっては貸金庫に入っている場合もありますので、その場合は貸金庫を開けるための手続きが必要です。見つかった貴金属の財産的価値を調べるには、鑑定士に鑑定してもらうと一番手間がかからないでしょう。
(3)芸術品(骨董品や絵画など)も同様に、財産の存在と財産的価値を調べていきます。
たとえば、その作品の落款(判子)や署名、美術年鑑からその作者を探し、作品の評価額を調べる方法が考えられます。また、作品が入っている箱や添付の資料には作品の作者や評価額などのヒントとなる情報がありますので、必ず確認しましょう。
被相続人の死亡時に受け取れる生命保険金や死亡退職金は保険契約者本人に支払われるものではないため、相続財産ではありません。そのため、遺産分割の対象にもなりません。
しかし、相続税の算定の際には、「みなし相続財産」として相続財産に加算されますので、他の財産同様に必ず調査しておく必要があります。
保険金の受取人がわかっている場合は、受取人の預貯金の通帳に記帳されている内容から、保険会社や保険金額の手がかりが見つかります。
一方、受取人に心当たりがない場合は、保険証券や保険会社から被相続人宛に届いている郵便物などを探しましょう。そうして被相続人の契約している生命保険会社が判明したら、その保険会社に連絡し、保険の契約内容を確認しておきましょう。
被相続人が働いていた期間に亡くなった場合に、勤務先の会社から死亡退職金が支払われることがあります。その支払先や支払われる退職金の額については、勤務先の会社から送付される支払明細書で確認します。もし見つからなければ会社に明細書の発行を請求しましょう。
相続財産には、不動産や預貯金などの「プラスの財産」だけでなく、ローンや借金などの「マイナスの財産」も含まれます。相続財産調査にあたっては、マイナスの財産こそ入念に調査すべきです。その理由は主に3つあります。
ローンや借金といったマイナスの財産は、相続放棄をしない限り、他のプラスの財産とともに相続人が相続します。つまり、被相続人の債務を相続人が代わりに返済しなければならないことになります。
相続放棄の期限は、相続が開始してから3か月以内であるため、それまでにマイナスの財産を含めた、相続財産を相続しないという判断をするために、必ず債務も調査しましょう。
遺産分割の協議では、把握している相続財産をどのように分けるかの協議を行い、相続人全員の合意をもって分割内容を決定していきます。しかし、相続財産があとから発見された場合は、遺産分割はやり直しとなります。
特に、マイナスの財産はだれしも相続したくないものですので、これが後から見つかってしまうと相続トラブルの原因となる可能性もあります。このようなトラブルにならないためにも、マイナスの財産も含めた相続財産をすべて把握してから、遺産分割を実施するのが望ましいといえます。
マイナスの財産が存在する場合、相続税を算定するための相続財産額から「債務控除」として差し引くことが可能です。そのため、相続税が課税される程度の相続財産があるときには、債務控除を受けるために、マイナスの財産が存在しないかも必ず調査するべきです。
マイナスの財産の例としてまず挙げられるものに、住宅ローンがあります。被相続人がまだローンを完済していないと、その債務は相続人に相続されます。
また、クレジットカードの支払残高もマイナスの財産といえます。相続が発生すると預貯金の口座は凍結されますので、引き落としによる決済が行われなかったとして督促状が届くことがあります。
これらの住宅ローンやクレジットカードの場合は、債権者から定期的に書類が届く可能性が高く、比較的簡単にその存在を把握することができます。
しかし、被相続人が家族に隠していた借金があり、突然取り立てられた、という事例もあります。こういった事態はぜひ避けたいものですね。では、マイナスの財産はどのように調査すればよいのでしょうか。
住宅ローンや自動車ローンなどのローンの残高については、被相続人宛の請求書が届いていないかを確認しましょう。
特に住宅ローンの場合は、契約者が死亡すると、ローンの残額が保険金から全額支払われる団体信用生命保険を金融機関が設定していることがあるので、請求書が届いていたら必ず金融機関に問い合わせしましょう。
クレジットカードの支払残高についても請求書が届いていないか確認し、届いていたら支払いを済ませましょう。最近はウェブで利用明細が確認できる場合も多いため、被相続人のパソコンを使って探すことも必要です。]
また、クレジットカードをそのままにしておくと年会費の支払いなども発生してしまうため、必ず解約しておきましょう。
複数のカードや、消費者金融からの借入れの利用がありそうなときは、CICやJICC、KSCといった信用情報機関に照会することで、ほとんどの負債を一度に把握することもできます。ただし、照会には手数料がかかるほか、相続人による照会の場合は自分が法定相続人であることを証明すること(具体的には戸籍謄本を送付すること)が必要となります。
それ以外の、特に個人からの借金については、被相続人の自宅などに借用書がないか、入念に探す必要があります。また、貸主として心当たりのある人に聞いてみるのもよいでしょう。このとき、借用書がないのに借金の存在を一方的に主張されてしまったら、必ず弁護士に相談してください。
遺産分割協議をスムーズに進めるには相続財産の内容を一覧化した、「財産目録」を作成し、相続人全員が相続財産の全容を把握できる状態にするとよいでしょう。
ここでは、具体的な記載方法につき、裁判所が作成したひな形をもとに説明します。
ここまで説明してきた通り、相続財産調査は、被相続人の自宅で探した手がかりをもとに、いろんな場所から財産の情報を集める作業の繰り返しです。
しかし、以下で説明するとおり、相続人ご自身で相続財産調査を実施するのは非常に難しいと考えられます。
まず、被相続人が、土地の権利書や保険証券などをどこに保管しているかを、常に把握してる方はなかなかいないと思います。
そのため、遺品から財産の手がかりを見つけるには様々な場所をくまなく探す必要があり、もし見つかっても必要な情報が記載されていない、ということもしばしばあります。そのため、非常に手間のかかる作業になります。
また、手がかりを見つけた後には、たとえば不動産について調べるためには法務局や市町村役場、預金について調べるには銀行等の金融機関に行かなければなりませんが、いずれも平日の日中にしか開いておらず、これらの手続の時間を確保するのは難しいです。
このとき、被相続人が複数の金融機関で預貯金口座を作っていたり、複数の市町村に不動産を所有していたりすると、書類の取り寄せに時間がかかってしまうこともあります。
さらに、被相続人が、家族に内緒で預貯金の口座を作っていたり、借金を隠していたりすると、相続開始後に通帳や書類を発見できない場合があります。こうして財産調査に漏れがあると、相続手続が終わってから借金の督促状が届くなど、思わぬトラブルになる可能性もあります。
被相続人が亡くなったとき、相続人の皆様には、相続財産調査以外にもやらなければならないことは山積みかと思います。そんな中でも早急に、かつ正確に相続財産の調査をするためには、相続の専門家である弁護士にご依頼いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、相続案件を多数取り扱っている弁護士が、相続財産調査とともに、・相続放棄や限定承認をすべきか否か、・遺産分割をどのように進めるか、などの法的なアドバイスを差し上げることも出来ます。ぜひ、ご相談ください。