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相続が始まった後で、被相続人が生前に作成した遺言書について、
「遺言書を開封したところ、押印がなかった」
「遺言書がパソコンで作成・印刷されたものだった」
…と発覚することがあります。
法律上、遺言書の種類は公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つがありますが、それぞれの法定の形式に違反しているものは効力が認められません。例えば、自筆証書遺言を作成しても、日付の記載がないものや印鑑が押されていなければ法的に有効とはいえません。
①のような形式的な判断基準だけでは遺言書の有効性につき結論が出ないケースでは、争いが深刻化することがあります。
その代表的なものが、
「亡父の遺言書が見つかったが、長年認知症だった父が作成できたとは思えない」
「故人と同居していた家族が状況を利用して自分に有利な内容の遺言書を書かせたのではないか」
…といった、遺言能力の有無が争われるケースです。
遺言能力とは、遺言を残す行為の意味とその結果について判断する能力をいい、遺言能力の無い方が作成した遺言書は無効となります。もっとも、実際には「遺言者が認知症を患っていた」という事実のみで直ちに遺言書の効力が否定されるわけではなく、遺言能力が否定されるか否かは、遺言書作成当時の認知症の進行状況や日常の判断能力など、様々な事情を考慮して決定されます。そのため、遺言書の効力を争うために様々な証拠を集める必要があるのです。
また、相続のご相談をお受けしている中では、
「他の相続人に手書きの遺言書を見せられたが、故人本人の筆跡か疑わしい」
「遺言の内容が、故人が生前話していた財産の分割方法とかけ離れている」
…といったお話を耳にすることも多いです。
遺言書の筆跡が故人のものでないような場合は、偽造があったとして効力が認められません。もっとも、訴訟では必ずしも筆跡鑑定のみで偽造の有無について結論が出されるわけではなく、遺言の内容等の様々な事情が考慮されていることから、実は紛争が複雑になりやすい類型といえます。
そこで、以下では札幌市近郊で多数の相続問題を取り扱ってきた弁護士が、遺言の内容に納得が出来ないときに遺言の効力を争う方法につきご説明いたします。
上述の通り、遺言の有効・無効の判断は、遺言書作成時の状況により変わるものです。そのため、交渉や家事調停、遺言無効確認訴訟の際は、当時の状況を裏付ける証拠となる資料を可能な限り収集することが重要です。
例えば、「遺言書作成時には被相続人の認知状態に問題があり、遺言書を作成できる状態になかった」と主張して遺言能力を争う場合には、遺言書作成当時、あるいはなるべく近接した時期における被相続人の医療記録(診断書やカルテなど)や介護記録(介護認定を受ける際に作成する主治医意見書、認定調査票など)を取得することになります。
また、「遺言書の筆跡と被相続人の筆跡とが異なり、被相続人本人が作成したとはいえない」と主張して遺言書の偽造について争う場合には、遺言書以外で被相続人が作成した別の書面をなるべく多く準備します。一般的には年賀状や手紙、日記、手帳といったものが見つけやすいと思いますが、出来たら遺言作成の近い時期で、コピーではなく原本を揃えることが望ましいです。
こうして収集した資料をもとに、遺言の有効・無効の可能性が判断され、結果に応じてその後の対応が変わることになります。
交渉や調停・訴訟を通じて遺言が無効と判断された場合、法律的には遺言は元々なかったものと同じ状態となります。したがって、改めて相続人の間で遺産分割の内容について協議することになります。もっとも、遺言の効力を巡りすでに紛争になった後で当事者同士での協議が難しくなっている状態であれば、遺産分割調停・審判によって遺産分割の内容を決定していくことになるでしょう。
もし、遺言の無効が確認されるまでの間に遺言執行が進行し、遺言内容に従った財産の移転がすでになされてしまっていたとしても、後に遺言が無効と判断されれば、そうした遺言執行や財産移転の効果も生じません。そのため、当該財産を相続により取得することになった相続人は、受遺者(遺言により財産を受け取った人)に対して相続分についての損害賠償請求ないし不当利得返還請求、相続財産が不動産の場合は抹消登記手続請求、といった手続きを経て、改めて決定した遺産分割内容を実現していくことになります。
一方、遺言内容が有効と判断された場合には、その遺言内容が遺留分を侵害していないかを確認することになります。
遺留分とは、遺言の内容に関係なく一定の相続人(遺留分権利者)に承継されるべき最低限の割合を指します。遺言内容がこの権利を侵害している場合は受遺者に対し遺留分侵害額請求を行い、法律で定められた範囲の遺留分を受け取ることになります。
なお、遺言無効確認請求と遺留分侵害額請求は同時に行うこともあります。というのも、遺留分侵害請求権は遺留分権利者が相続開始や遺贈等を知った日から1年以内に行わないと時効により消滅してしまうからです(さらに相続開始から10年間の除斥期間も設けられていますが、こちらが問題になるのは稀なケースです)。訴訟により遺言の有効性が認められてしまう事態を想定し、遺留分侵害額請求を内容証明郵便により行い、請求権を行使したことを証明できるようにしておくことが重要です。
親戚で不幸があった後、想定外の遺言が出てきたような場合、その遺言が無効であると主張することが考えられます。その主張の内容は、遺言の種類に応じて異なります。
自筆証書遺言とは、遺言者が、その全文・日付および氏名を自筆し、押印することで作成することができる遺言です。
この自筆証書遺言は、遺言の中で、最も簡単に作ることができ、それだけに最もよく使われる遺言でもあります。しかし作成が簡単な一方、紛失・偽造・変造の危険があったり、内容が不明確だったりするという理由で遺言の有効性が争われやすい遺言でもあります。
このような自筆証書遺言では、次のような観点から遺言が無効であると主張することが多くあります。
自筆証書遺言は、作るのが簡単とはいえ、遺言者が、その全文、日付および氏名を自筆・押印する必要があるなど一定の法律上の決まりがあります。このような決まりを守っていないと、それが理由で遺言が無効とされることがあります。
例えば、パソコンで遺言を作成・印刷し、そこに署名押印したとしても、これは全文が自筆されていないことになるので、無効となります。また、高齢者が遺言を作成する際、自分一人では手が震えて書くことができないため、誰かに手を取ってもらい書くという場合もあります。しかし、最高裁は、このような方法によって作成された自筆証書遺言につき、無効となる場合があるとしています。
したがって、もし遺言がこのような形式的要件を満たしていなければ、これを理由に遺言が無効であると主張することが考えられます。
弁護士に依頼した場合、弁護士が、遺言の決まりを守れているかを検討し、遺言の有効性を判断します。逆に、遺言を作成する場合は、弁護士が、遺言の決まりが守れているかをチェックいたしますので、後で無効とされるリスクをなくすことができます。
遺言能力とは、遺言を有効にすることができる資格をいいます。原則として、15歳に達した者であれば遺言能力があります(民法961条)。しかし、自分の遺言の意味(誰が何の財産を取得するか等)を理解することができないような場合、遺言能力が否定され、遺言は無効となります。
例えば、亡くなった方(被相続人)が、遺言を作成した頃、認知症であった等遺言の意味を理解していたか疑わしいような事情がある場合、遺言作成時に遺言能力がなかったため遺言は無効であると主張することが考えられます。
実際に遺言能力が否定されるか否かは、様々な事情を考慮した上での法律的な判断によるため、生前に認知症だと診断されていても遺言能力が認められる場合もありますし、逆に認知症と診断されていなくても遺言能力が認められない場合もあります。
弁護士に依頼した場合、弁護士が、医師による診断だけなく、生前の被相続人の様子、遺言の内容等の様々な事情を収集・分析し、遺言能力の有無を争うことができるかを判断いたします。
遺言が偽造、すなわち遺言者以外の他人によって作成されたものであると主張する場合もあります。
例えば、出てきた遺言書の文字が被相続人(亡くなった方)の他の文書の文字と異なる場合や、生前疎遠だった親戚に全て相続させる等遺言の内容が不自然である場合に遺言の偽造が考えられます。
遺言が偽造か否かは、筆跡鑑定すれば良いと思われるかもしれませんが、裁判では必ずしも筆跡鑑定のみで決まるわけではなく、遺言の内容等の様々な事情を考慮した上で偽造の有無が判断されます。
弁護士に依頼した場合、弁護士が、筆跡や遺言の内容等の事情を収集・分析し、偽造遺言であるとされる見込みがあるかを判断いたします。
公正証書遺言とは、公証人という公務員が、適法かつ有効に遺言がなされたことを証明する公正証書という文書によってなされる遺言です。公正証書遺言を作成するためには、証人2人の立会いの下、公証人の面前で、遺言者が公証人に遺言の内容を口で伝え、公証人は遺言者の意思を文書にまとめ、遺言とします。
このように作成された公正証書遺言は、公証人が介在することから、遺言が無効とされることはほとんどありません。しかし、次のような場合は、公正証書遺言が無効とされる可能性もあります。
自筆証書遺言と同じで、遺言者が、遺言する時に、遺言の意味を理解できる能力がなかった場合、公正証書遺言は無効となります。
もちろん、公証人は、遺言者が、遺言の意味を理解できているか確かめながら遺言を作成するため、自筆証書遺言に比べ、遺言する時に遺言能力がなかったと判断されることは多くありません。しかし、公証人の確認が不十分であった場合等は、遺言能力がなかったと判断される場合もありえます。
弁護士に依頼した場合、弁護士は、公正証書遺言を作った時、遺言者は遺言の意味を理解できる状態だったのか、公証人はどのようにして遺言者の遺言能力を確かめたのか、公証人のした確認は十分といえるのかを調査し、公正証書遺言が無効とされる見込みの有無を判断いたします。
口授とは、遺言者が、公証人に対し、遺言の内容を口で伝えることをいいます。このような口授が、実際には遺言者が頷いていただけであったり、「はい」という返事をしていただけと認められる場合は、適法な口授がなかったものとして公正証書遺言が無効とされる可能性があります。
弁護士に依頼した場合は、適法な口授がなされたかを調査し、公正証書遺言が無効とされる見込みがあるかを判断いたします。
たとえば、Bさんが亡くなったとして、Bさんには、A、Cという子供がいたとします(Bさんの配偶者は既に亡くなっていたとします)。Bさんが亡くなった後、「全財産をCに相続させる」という遺言が見つかりました。Aさんは、遺言の有効性についても検討したものの、遺言が無効とされる見込みがないことがわかりました。
このような場合、Aさんは、一切財産を相続することができないのでしょうか。答えはノーです。法律は、兄弟姉妹以外の相続人に、どのような遺言がされたとしても最低限もらえる取り分として遺留分を認めています。では、その遺留分の額はというと、原則として法律上本来もらえるはずの相続分の半分となります。*
たとえば、上記の具体例でBの財産が8000万円だったとすると、Aさんが、法律上本来もらえるはずの相続分は1/2なので、その半分の1/4にあたる2000万円が遺留分となります。したがって、遺言の内容がどのようなものであっても、Aさんは、最低でも2000万円については相続できることとなります。
弁護士に依頼した場合、弁護士が、まず遺言の有効性を争えないか検討いたします。その上で遺言が無効であると主張できない場合は、遺留分を計算し、最低でも遺留分について相続を受けたことを主張いたします。
*相続される方が直系尊属(亡くなった方の父母やそれより上の親族のことです)のみの場合は、本来もらえる相続分の1/3となります。
では、遺言が無効である可能性がある場合、どのようにして遺言無効を主張するのでしょうか。もちろん、話し合いによる遺産分割協議ということも考えられますが、話し合いでまとまらない場合には、法的な手続として遺産分割調停と民事訴訟が考えられます。
まずは、遺産分割調停を申し立て、調停手続の中で遺言が無効であることを主張します。調停とは、裁判所が介入して行う話し合いの手続きです。
当事者同士の話し合いで解決しなかったことでも、裁判官が、双方の意見を聞き、遺言の有効性について裁判所の意見を述べることによって、訴訟によらずに話し合いで解決する可能性があります。
遺産分割調停によっても、解決に至らなかった場合、いよいよ訴訟となります。具体的には、まさに遺言が無効か否かについて判決をもらう遺言無効確認請求訴訟を提起することとなります。
なお、この民事訴訟を提起するためには、必ず訴訟提起をする前に調停を申し立てたことがあることが必要となります。
遺言は法定相続分と異なる相続の方法を実現できる手段であり、その方法に皆が納得できるケースばかりであるとは限りません。一部の相続人あるいは相続人以外の方が得をするような内容であれば、他の相続人としては物申したいと考えられることでしょう。
もっとも、遺言により遺産を多くもらった相手方が素直にこちらの言い分を認め、遺言の効力を否定することはほとんどありません。このように遺言の効力が争われる場合では、当事者間での協議で解決することは困難な場合が多く、裁判所に判断を委ねるにしても、どれだけ説得力のある資料を用意できるかが重要となります。
そこで、遺言の有効性に疑問が持たれるケースにおいては、弁護士にご依頼いただくことをお勧めします。弁護士法人リブラ共同法律事務所では、弁護士が専門的な知識や裁判例に基づき、どのような資料を集めればよいのかを事案に応じて検討・分析いたします。また、必要書類が多く面倒な医療記録や介護記録の取得手続もご依頼者様に代わって行います。さらに、弁護士が相手方の反論や訴訟での見通しも考慮して、相手方との協議や調停・訴訟を代理人として行うため、ご依頼者様の精神的なご負担や時間的なコストも軽減されます。
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弁護士法人リブラ共同法律事務所
代表弁護士 菅原 仁人
相続、離婚など家事事件
中央大学法学部卒業後、平成21年に弁護士登録、札幌の法律事務所に入所。3年半の勤務を経て北海道リブラ法律事務所(現弁護士法人リブラ共同法律事務所)を設立。
札幌地域の離婚や相続など、家事事件を主に取り扱っている。現在は札幌市内2か所(札幌・新札幌)と東京1か所(吉祥寺)に拠点を構える弁護士法人の代表として活動している。