〇この記事を読むのに必要な時間は約7分49秒です。
相続が始まった後で、被相続人が生前に作成した遺言書について、
「遺言書を開封したところ、押印がなかった」
「遺言書がパソコンで作成・印刷されたものだった」
…と発覚することがあります。
法律上、遺言書の種類は公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つがありますが、それぞれの法定の形式に違反しているものは効力が認められません。例えば、自筆証書遺言を作成しても、日付の記載がないものや印鑑が押されていなければ法的に有効とはいえません。
①のような形式的な判断基準だけでは遺言書の有効性につき結論が出ないケースでは、争いが深刻化することがあります。
その代表的なものが、
「亡父の遺言書が見つかったが、長年認知症だった父が作成できたとは思えない」
「故人と同居していた家族が状況を利用して自分に有利な内容の遺言書を書かせたのではないか」
…といった、遺言能力の有無が争われるケースです。
遺言能力とは、遺言を残す行為の意味とその結果について判断する能力をいい、遺言能力の無い方が作成した遺言書は無効となります。もっとも、実際には「遺言者が認知症を患っていた」という事実のみで直ちに遺言書の効力が否定されるわけではなく、遺言能力が否定されるか否かは、遺言書作成当時の認知症の進行状況や日常の判断能力など、様々な事情を考慮して決定されます。そのため、遺言書の効力を争うために様々な証拠を集める必要があるのです。
また、相続のご相談をお受けしている中では、
「他の相続人に手書きの遺言書を見せられたが、故人本人の筆跡か疑わしい」
「遺言の内容が、故人が生前話していた財産の分割方法とかけ離れている」
…といったお話を耳にすることも多いです。
遺言書の筆跡が故人のものでないような場合は、偽造があったとして効力が認められません。もっとも、訴訟では必ずしも筆跡鑑定のみで偽造の有無について結論が出されるわけではなく、遺言の内容等の様々な事情が考慮されていることから、実は紛争が複雑になりやすい類型といえます。
そこで、以下では札幌市近郊で多数の相続問題を取り扱ってきた弁護士が、遺言の内容に納得が出来ないときに遺言の効力を争う方法につきご説明いたします。
上述の通り、遺言の有効・無効の判断は、遺言書作成時の状況により変わるものです。そのため、交渉や家事調停、遺言無効確認訴訟の際は、当時の状況を裏付ける証拠となる資料を可能な限り収集することが重要です。
例えば、「遺言書作成時には被相続人の認知状態に問題があり、遺言書を作成できる状態になかった」と主張して遺言能力を争う場合には、遺言書作成当時、あるいはなるべく近接した時期における被相続人の医療記録(診断書やカルテなど)や介護記録(介護認定を受ける際に作成する主治医意見書、認定調査票など)を取得することになります。
また、「遺言書の筆跡と被相続人の筆跡とが異なり、被相続人本人が作成したとはいえない」と主張して遺言書の偽造について争う場合には、遺言書以外で被相続人が作成した別の書面をなるべく多く準備します。一般的には年賀状や手紙、日記、手帳といったものが見つけやすいと思いますが、出来たら遺言作成の近い時期で、コピーではなく原本を揃えることが望ましいです。
こうして収集した資料をもとに、遺言の有効・無効の可能性が判断され、結果に応じてその後の対応が変わることになります。
交渉や調停・訴訟を通じて遺言が無効と判断された場合、法律的には遺言は元々なかったものと同じ状態となります。したがって、改めて相続人の間で遺産分割の内容について協議することになります。もっとも、遺言の効力を巡りすでに紛争になった後で当事者同士での協議が難しくなっている状態であれば、遺産分割調停・審判によって遺産分割の内容を決定していくことになるでしょう。
もし、遺言の無効が確認されるまでの間に遺言執行が進行し、遺言内容に従った財産の移転がすでになされてしまっていたとしても、後に遺言が無効と判断されれば、そうした遺言執行や財産移転の効果も生じません。そのため、当該財産を相続により取得することになった相続人は、受遺者(遺言により財産を受け取った人)に対して相続分についての損害賠償請求ないし不当利得返還請求、相続財産が不動産の場合は抹消登記手続請求、といった手続きを経て、改めて決定した遺産分割内容を実現していくことになります。
一方、遺言内容が有効と判断された場合には、その遺言内容が遺留分を侵害していないかを確認することになります。
遺留分とは、遺言の内容に関係なく一定の相続人(遺留分権利者)に承継されるべき最低限の割合を指します。遺言内容がこの権利を侵害している場合は受遺者に対し遺留分侵害額請求を行い、法律で定められた範囲の遺留分を受け取ることになります。
なお、遺言無効確認請求と遺留分侵害額請求は同時に行うこともあります。というのも、遺留分侵害請求権は遺留分権利者が相続開始や遺贈等を知った日から1年以内に行わないと時効により消滅してしまうからです(さらに相続開始から10年間の除斥期間も設けられていますが、こちらが問題になるのは稀なケースです)。訴訟により遺言の有効性が認められてしまう事態を想定し、遺留分侵害額請求を内容証明郵便により行い、請求権を行使したことを証明できるようにしておくことが重要です。
遺言は法定相続分と異なる相続の方法を実現できる手段であり、その方法に皆が納得できるケースばかりであるとは限りません。一部の相続人あるいは相続人以外の方が得をするような内容であれば、他の相続人としては物申したいと考えられることでしょう。
もっとも、遺言により遺産を多くもらった相手方が素直にこちらの言い分を認め、遺言の効力を否定することはほとんどありません。このように遺言の効力が争われる場合では、当事者間での協議で解決することは困難な場合が多く、裁判所に判断を委ねるにしても、どれだけ説得力のある資料を用意できるかが重要となります。
そこで、遺言の有効性に疑問が持たれるケースにおいては、弁護士にご依頼いただくことをお勧めします。弁護士法人リブラ共同法律事務所では、弁護士が専門的な知識や裁判例に基づき、どのような資料を集めればよいのかを事案に応じて検討・分析いたします。また、必要書類が多く面倒な医療記録や介護記録の取得手続もご依頼者様に代わって行います。さらに、弁護士が相手方の反論や訴訟での見通しも考慮して、相手方との協議や調停・訴訟を代理人として行うため、ご依頼者様の精神的なご負担や時間的なコストも軽減されます。
札幌市近郊にお住まいで、遺言書の内容に納得できない点がある方は、多数の相続問題を解決してきた弁護士法人リブラ共同法律事務所へぜひご相談ください。